#117
【この記事でわかること】
居酒屋での「拒絶」体験を通じ、内集団バイアスや心理的安全性の欠如が組織に与える弊害を解説します。
不器用さんこと私は、奥様とたまに居酒屋へ出かけることがあります。私はハンドルキーパーであり、そもそもお酒を嗜むことができませんので、居酒屋という場所であってもひたすら食べてばかりいます。逆に奥様はお酒しか飲みませんので、私たちはまさに真逆の二人ということになります。今回は、生花祭壇の話とは少し離れた、ある日の出来事について記事にしてみたいと思います。
かれこれ1年ほど前、ある居酒屋を訪れました。個人経営の小さなお店で、奥様がウェブで見つけて、雰囲気が良さそうだから行ってみようということになったのがきっかけです。計3回ほどそのお店にお邪魔したのですが、私は1回目と2回目の訪問で、何とも言えない違和感をそのお店に感じていました。これといって明確に嫌なことがあったわけでもなく、料理もそれなりにおいしい部類ではないかということで、奥様と二人でまずまずの評価であったと記憶しています。ですが、お客様の構成はほぼ常連さんか店主の交友関係が中心であるように見受けられました。いつもお客様で店が埋まっているようでしたので、3回目は電話で予約をしてから来店することにしました。
【予兆】常連客の視線と、店主の素っ気ない対応に感じた違和感
その日も特に何事もなく食事を終えましたが、会計を済ませて店を出る際、今までにない違和感を私は覚えました。その翌日、私は仕事へ行きましたが、帰宅して早々、私は奥様に「昨日の店には二度と行く必要はない」と少し強めの口調で伝えました。帰宅直後の私の言葉に、奥様も何事かと驚き、当然のように何があったのかと尋ねられました。
その日の仕事終わりに、見覚えのない電話番号から着信がありました。私は取引先からの連絡かもしれないと思い、その番号に電話をかけ直しました。すると、つながった先は昨日お邪魔した居酒屋でした。電話がつながった途端、店主から告げられたのは「二度と当店に来ないで下さい」という言葉でした。私たちはただ静かに食事をしていただけでしたので、私はなぜそのようなことを言われているのか、全く理解が追いつきませんでした。
なぜそのようなことをおっしゃるのか理由を聞いてみると、「当店は楽しくお酒を飲んでいただけないお客様には来てほしくない」という回答でした。ますます言っている意味がわからなくなってしまい、これ以上お話をしても意味がないと考え、失礼させていただくことにしました。
【逆クレームの正体】「異物」を排除する内集団バイアスという心理傾向
電話を切ってすぐには頭の整理がつきませんでしたが、徐々に、私が以前から抱いていた違和感とこの出来事がつながっていきました。
私が感じていた違和感の一つは、店主の対応でした。他のお客様へは明るい対応をするのに、私たちに対しては少し素っ気ない対応をされていました。その時は人見知りの方なのかな、くらいにしか思っていませんでした。もう一つの違和感は、他のお客様が妙に私たちをちらちらと見てくることでした。いつも見ない顔がいるから気になっているだけだろう、とその時は受け流していました。
しかし、逆クレームとも思える電話を受けた後、私の頭はその違和感の正体をこのように判断しました。この店主と常連客の方々は、いつもいない「異物」である私たちを、どこかしら邪魔に感じていたのではないかということです。社会心理学の分野では、これを内集団バイアス(In-group favoritism)や外集団排除と呼ぶそうです。人間は自分が属するグループをひいきしやすく、そこに含まれない初見の客に対して無意識に警戒や排除の目を向けてしまう心理傾向があるようです。
つまりそのお店は、いつもの常連たちでいつもの雰囲気で仲良くやりたい場所であり、異物の私たちがいることでいつも通りの振る舞いができず、自分たちの空気を乱されたと感じたのではないでしょうか。それが店主の気に入らなかったのではないかと考えられます。
私が思うに、これは職場における「仲良しごっこ」に通じる現象ではないかと感じています。職場だけではないとは思いますが、仲良しごっこが発生している組織においては、その仲良しグループに馴染めない人は蚊帳の外に置かれがちです。そのグループで強固な人間関係ができあがっているため、なかなかその中に入り込むのが難しくなる場合も多いように感じられます。
【組織の脆弱性】「仲良しごっこ」が奪い去る、新参者のための心理的安全性
組織論において、「心理的安全性(Psychological Safety)」という概念があります。これは「組織の中で自分の考えや意見を、他者からの報復や批判を恐れずに率直に言える状態」を指すものとされています。この居酒屋には、常連の方々にとっての閉ざされた「居心地の良さ」はあっても、新参者が安心して過ごせる「心理的安全性」は完全に欠落していたのではないかと私は思います。
このような状態では、落ち着いて食事をすることはできません。このお店も、長年続いた組織にありがちな「小さなムラ社会」のような構造になっていたのではないかと私は考えます。何回か来店した際に感じた、何とも言えない居心地の悪さにも納得がいきました。あえて表現するならば、心理的安全性が保たれていない居酒屋、といったところでしょうか。
変なクレームのような電話をかけてくるくらいなら、会員制にでもしておけばよいのにな、とその時は思いました。仕事場であれ、食事処であれ、心理的安全性が確保されていなければ、すべてが台無しになってしまうなと痛感した出来事でした。
今回のまとめ
【排他的な「居心地の良さ」は、真の心理的安全性とは似て非なるもの】
#心理的安全性 #内集団バイアス #組織論 ── [不器用職人のキーワード集(五十音順)はこちら]
本日の花言葉

8月16日の誕生花:オミナエシ(女郎花)
花言葉:「忍耐」「親切」「はかない恋」
【関連記事】